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目的

ポストコロナの都市構造変革期における中心市街地・天神大名での社会実験

「都心空間での交流創出」

これからの「交わり」へ ~ストーリーのある都心をつくる~

【背景】

 元気なまちと言われる福岡市。その中心である天神は「天神ビッグバン」という建替促進制度の導入によりいくつもの大型再開発が進行中です。2024年末にすべてのプロジェクトが完成すると、大型オフィス、商業施設、6つ星ホテルなどが現れる予定です。

 

 現在でも百貨店や商業施設、オフィスビルの並ぶ九州一の繁華街・天神は、その近辺にある大名や今泉、警固など、道幅の狭い小さなショップ類がひしめく街と一体です。大型施設を彩る華やかな大資本の店舗と、ローカルなショップがつくる界隈性の併存が、来訪者にも働く人にも多様な街の楽しみ方を提供している。それが広域の天神の魅力です。

 

 天神は東側に那珂川が流れているため、その賑わいは反対の西方向、すなわち大名へと拡大していきました。天神と大名の境界にあたる天神西通りは、この20年で九州中から来訪者が集まり、インバウンドも激増、商業の中心になりました。有名ブランドのショップが増え、不動産価値も上昇し賃料も高騰。しかしその高騰のせいか最近はだんだんと空室が増え、通りの賑わいに陰りが出てきています。天神西通りから大名の内側へ広がるヒューマンスケールなまちなみにも、その影響が懸念されています。

 

 さらに今後は新型コロナウィルス禍の想像を超える大きな影響が、都市構造に及ぶと考えられます。コロナ以前から、リモートワークはオフィスの小型化や分散化を促し、eコマースの発達はリアル店舗のあり方を変えると言われてきました。そして今、一挙にその変化が現実化してきています。通勤せずとも在宅で仕事ができ、わざわざ店に出向かずとも必要な物品が自宅に届くとなると、都心の役割と価値はどうなっていくのでしょう。

 

 コロナの影響で経済が急激に縮小し、多くの店が休業を余儀なくされ、やがて退店が増えるのは時間の問題です。都心であればあるほど家賃が高額なため店舗開店に大きな初期投資額が必要になります。都心から遠ざかりつつあった地元の小規模事業者はますます二の足を踏み、グローバル資本の物販店も出店意欲を削がれ、これから街なかの賑わいの回復には相当の時間がかかると思われます。

 

 人類は自給自足していたはるか昔から、他地域と交流や交易を通して信頼や友好関係の構築に努めたと言われています。市(いち)の存在も、ものの売り買いだけでなく情報の交換や娯楽の場でもありました。私たちはこれからも交流を必要とし続けるでしょう。

しかしポストコロナ期に人々の生活パターンや規範が変わるときに、都心はこれまでとは違う新しい場と魅力を備えていかなければ衰退していくでしょう。どのような交流や交換が、どのような「交わり」が次なる社会の歓びとなり、文化を高め、人々の暮らしを豊かにしていけるのでしょうか。

 

あらゆることに「もうハードだけでは無理、コンテンツが重要だ」と言われてきました。

街についてもそこに行きたくなるのは「ストーリー」があるから、そして共感や参加を通して自分もその一部になるから。

都心の空き店舗を、さまざまな文化が出会いストーリーが育まれる場に転換する実験を行います。

 

コロナウィルスの収束時期が見えていない今から、収束の兆しが見えたときに為す事の準備になる実験を目指します。そしてこの取り組みが九州の他都市の都心空間の活性に役立つよう、九州のまちづくり団体に参加を促し、成果を共有できるようネットワークづくりを志します。

【実験の目的】

  • 柔軟な不動産活用の契機提供

  • 複数箇所利用によるエリア全体の活気付け

  • 新しい「交わり」の創造と「その街らしさ」の再発見

  • テーマ設定を通したOne Kyushuの具体化

  • ITを利用した来訪者の動向の測定とフィードバック

  • 大規模再開発完成後の都心の快適性向上への基盤づくり

 

<柔軟な不動産活用の契機提供>

 ポップアップストアとは期間限定で開かれる店舗のことで、ECサイトのオフライン販売や新サービス、新ブランドのプロモーションなどが多い。期間限定なためSNSでの拡散にも向いていると言われる。

 京都、祇園にエルメスがポップアップストアを出店したような意外性が高いもの、バレンタインなど季節感につながるものなどがあるが、いずれも「そのときにその場所でしか体験、入手できない」という点を消費者に訴えかける店舗である。

 一方、それを実現する短期賃貸借契約はまだほとんどの福岡の不動産オーナーには馴染みがなく平常時では採用へのモチベーションが低い。しかしこの状況下では、短期でも賃料収入を得る取り組みに対し興味を持ってもらえる可能性が高い。景気後退による長期の空室化に備えて、柔軟な利用と契約を試行し、街の活気を維持する機会にしていく。

 

<複数箇所利用によるエリア全体の活気付け>

 期間限定のため話題性の高いポップアップストアが一箇所ではなく天神・大名の複数箇所で同時に立ち現れるとエリア全体の活気を生むことにつながる。複数の場所を来訪者が回遊するとまち歩きにも繋がり、ポップアップストア以外の店舗への誘導も期待できる。

 ITと組み合わせ、実験前後の人の流れ、滞在時間を測定し、今後の活気づけのためのデータを積み上げていくこともできる。

 

<新しい「交わり」の創造と「その街らしさ」の再発見>

 重要なのは、人々が訪れたくなる体験したくなる「交わり」をつくれるかである。

 オンラインでの会議や知人とのやりとり、業務の遂行、物品の購入を多くの人が実体験した今日、足を延ばしてまで訪れたいと思うのはこれまでのような単一の目的を遂げる場所だけではなくなるだろう。

 今回の実験では一見無関係に思われた異なる分野を代表する在福岡の人物に参加依頼し、多分野が重なり合うことによるシナジーを狙ったコンテンツをポップアップストアにつくっていく。例えばスイーツと書物と有機農業、例えば音楽と写真と陶芸、例えば建築と食と織物。すでに存在しているローカリティある仕事や活動がお互いの関連を再認識したり、瞬間的な触発から新たな協同が生まれたりする場である。それは単純な購買や飲食ではなく即興演奏を楽しむような体験で、その時その場でしか体験できない「交わり」、そしてローカリティを軸に「その街らしさ」を確認していくような場でもある。

 それを後押しするのは、現代のキーワードの一つになっている「多様性」「共感」「ストーリー作り」や今まで体験したことのない広がりある歓び、文化軸がしっかり通った深味のある混沌、そこから生まれる邂逅が描くエンドレスなループ。

 そしてイベントとして終わらないよう、各分野への導入口になり人々の関心を集めて深め、ポストコロナでの回復や成長の手がかりとなるようなネット上でのサイトの構築やSNS等の発信も準備していく。

 

<One Kyushuへの取り組み>

 福岡市は160万都市という大きさにも関わらず、人と人との距離が近く博多祇園山笠や博多どんたくと伝統的祭りや催しが多い。近年では「ミュージックシティ天神」「ブックオカ」など、音楽や書物といった文化を軸としたイベントも根付いている。

 これまでしばしば言われてきたことに、「九州はひとつ」とは名ばかりで「九州はひとつひとつ」という状況がある。ポストコロナに九州全体が繋がりあって立ち上がっていくためには、九州の玄関口である福岡の街が先鞭をつけるのが最も相応しい。

 輪郭のはっきりした九州には、各地の風土を映す文化、質の高い生産物、歴史ある工芸がある。陶芸や織物、和牛や酒、雄大な姿を見せる阿蘇山や桜島。各地それぞれのプロモーションではなく、九州に散らばる点をつないで線を描き、ストーリーに高めていくための素材は尽きない。先に述べたコンテンツの上位にこれら九州のストーリーを描くことを取り入れ、「九州はひとつ One Kyushu」をつくるキックオフとしていく。

 さらにこの社会実験の成果を各県の中心市街地に展開する。

 

<ITを利用した来訪者の動向の測定とフィードバック>

 昨今ではスマートフォンを利用した人流、SNSから拾う反響の測定等が簡単になってきた。この実験の役目は消費量等の経済効果だけでなく、出会う、交じり合うことによる心的喜びの提供、都心という中心の重要性の確認とその可能性の認識を新たにすることである。

人々がどこからどこに移動したか、どこにどのくらいの時間滞在したか、そこでどんな消費をしたかなど、ITを利用したさまざまな測定を試み、今後の展開へフィードバックできるよう分析を行う。

 

<大規模再開発完成後の都心の快適性向上への基盤づくり>

 天神ビッグバンの再開発の一つとして大名にある旧大名小学校のプロジェクトがある。商業、オフィス、6つ星ホテルが入る予定で、数千人の通勤者が大名に増加すると予想される。その稼動が始まると街での人の動きや消費が大きく変わるはずだ。

 それまでの約3年間にこの実験を行いIT利用によるデータを取得しておけば、大プロジェクトが完成した後の変化を追い、街に散らばる交流スポットの配置や人の動きの誘導をデザインしていくことも考えられる。

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